令和4(2022)年度地域づくり表彰について
国土交通大臣賞
清流と山菜の里 ほその村
(山形県尾花沢市)
ー 何もないと思われた豪雪地の集落で、自ら発見した地域の資源や魅力をテーマに交流事業を展開
訪問者が「ただいま」と言い再び訪れてくるような工夫で「ほそのファン」を獲得 ー
- 活動の概要
- 人と人との出会いを大切に。稼げる地域も目指す
「ほその村」は、有数の豪雪地集落の、全戸参加の地域づくり団体
目立った資源が無いところからの先進地域への視察と意見交換。そこから地域のお宝探し活動での村歩きやお宝マップづくりから始め、除雪隊を組織し雪かきの相互扶助、廃れていた伝統行事の復活、地元の名産を活かし地域の外の人を呼び込む様々な産品・料理・交流事業を創造、意欲的に展開している。
東日本大震災の被災地の方々との交流も実施。
コロナ禍でもその歩みを止めず「にぎやかな田舎」づくりに邁進中
▶交流事業として、そばオーナー事業からのブルーベリー狩りや里芋収穫、そば打ち体験、カエデの樹液採取など⇒ どのイベントの後にも、農家レストラン「蔵」で参加者と住民との交流会開催、顔の見える、親しみを産み出す工夫
▶産品は、農産物加工施設「母ちゃん広場」や、道の駅や市外の産直市、「ふるさと定期便」の主力商品になっており、現在、黒字化を達成
▶コロナ下でもできる取組を模索、観光ワラビ園を開園、更なる展開を目指す - 選定理由
- 特別な資源がないところからの、懐かしいふるさとを感じさせる取組は優れ、移転性も高い
課題が山積みで一見何もないと思われた地域が、各地への視察や村歩きをきっかけに、地元が本来持つ魅力と資源を可視化し、交流事業に繋げ、雇用の創出や黒字を出す「稼げる地域」として再生する姿が評価された。また、何度でも訪ねて欲しい場所とするために、どのイベントの後にも参加者と住民とが一緒の交流会を実施。 顔の見える、人と人との繋がりを大切にした「地域のファンづくり」を目指す工夫は、移住促進だけでなく、人の繋がりが再評価されるアフターコロナ時代の地域づくりにおいて注目すべきポイントともいえる。目立った観光資源が無いという悩みを抱える全国の同様の地域に、諦めず勇気とやる気を起こさせる事例として紹介したい。

交流イベントのあとは、参加者と住民との交流会で和気あいあい

季節季節の、身近な出物を生かした手づくりの懐かしさあふれる田舎膳
一般社団法人 東彼杵ひとこともの公社
(長崎県東彼杵町)
ー「あつめる」ではなく「あつまる」地域づくり / UIターン者の協働で地域づくりを自分ごとに ー
- 活動の概要
- ふるさとで心豊かに暮らせるイメージを、後輩たちに伝えたい
「ひとこともの公社」はUIターン者らの有志からなる地域づくり法人
風光明媚な街道沿いで、かつては捕鯨の中継地としても栄えていた故郷が、「通り過ぎるだけのまち」になってしまっていたと危機感を覚えたUIターン者らが中心となり、取り壊し寸前の古い米倉庫をカフェ付き集合型店舗として再生。内外の人々の交流拠点、まちの産品のショーウインドーに。 更に町の低い知名度を克服する魅力発信事業、鯨に由来した新製品開発も手がける
▶UJIターン者のチャレンジ出店を支援。 8年間に25店もの店が新規開店
▶グループの理事は、Uターン者8名+Iターン者8名とユニークな構成
▶町の魅力を紹介したサイト「くじらの髭」をきっかけに移住者も増えた
▶第2の拠点「uminoわ」は、電力会社との協働で、外来者が来るカフェに地元の方が使うコインランドリーと地元雇用の衣服リメイクの縫製所を併設
▶定住しながら生計を立てられる、記事を請け負うライターの育成にも着手
▶これら施設や魅力を紹介した名所が、コロナ禍での町の活力を下支えした実績 - 選定理由
- 危機感を持つUIターン者の協働によるエリアイノベーションの試みが、「人が人を呼ぶ」構図に若い世代が自主的に「ここで仕事をしたい・自分も何か挑戦してみたい」と思わせる仕掛けづくりに注目
町の歴史や風景、特産物を活かした商品開発や積極的な魅力発信が、更に次の人の流れを産み出している。
単に一過性の賑やかさを指向せず、新たな雇用や新産業、定住を実現するライターやデザイナー、クリエイター達を育成する等の取組は、外来者の生計の確保だけでなく在住の若者の町外流出防止にもなっている点にも注目。
地域が本来持つ「ひと」「こと」「もの」の可能性を探究、それぞれの魅力を発信することで、活力を生んだ。

古い米倉庫をリニューアルした「ソリッソリッソ(伊語で「微笑みの米」)」

カフェとコインランドリ-と縫製場からなる第2の拠点「uminoわ」
全国地域づくり推進協議会会長賞
真岡まちづくりプロジェクト
(栃木県真岡市)
ー まちを使った高校・大学生らの持続可能性を見据えた取組が、地域の元気の起爆剤に ー
- 活動の概要
- もったいない公共空間をキャンバスに、若者がやりたいことを実現
「まちつく」は、学生を中心に据えた、まちなかの実験的な取組の企画・実行グループ
「農・商・工がバランス良く調和した理想的な地方都市」だったはずがアンケートでは、たった4年間で高校生の定住意向が55%から37%に急低下したことに市の危機感
⇒ 若者に、まちづくりを「わがごと」として考えてもらうため高校生・大学生中心の「まちをつくろう(まちつく)プロジェクト」を開始
▶「まちつく」メンバーが、まちあるきで魅力的な場所を発見し活用を構想
▶例えば、市役所向かいの河川敷に映(ば)えるモニュメントを作りマルシェを開催したり、指定文化財の別荘で和風クリスマスを実施したりと、若者が、従来、低未利用だった地域の公共空間・施設を、自分の創造の舞台として自在に活用する事業を展開
▶学生主導の実験的試みで多くの集客を得る等の成果を挙げたことから、活動を見た市民から協力の申し出や、自分たちでも何か企画したいとの声も出て、「まちつく」でない市民の事業の意欲も地域の中に高まってきており、一過性でない活力が生まれた
▶更に、観光コンシェルジュや福祉団体等、多様な主体からも連携の申し出がある等、市民協働のまちづくりの核のひとつとして、取組の輪はますます広がりを見せている - 選定理由
- 若者の意見に真摯に向き合い、若者を真の主役として、持続可能な形で地域づくりを担わせたこと
「市に残りたい」という高校生割合の激減ショックに目を背けず、若者自身が当事者として課題に向き合い、実施まで行わせる大がかりな実験を、まちぐるみで支援したことを評価。高校生や大学生をまちづくりに巻き込む企画は多いが一過性のものになることが多い中、事業開始から日が浅いものの、足元を見据え財源や資金捻出に関する取組や、市や各種団体が十全に支える等、継続性・発展性を強く意識したものとなっており期待できる。若者自身が、まちの有休資源の活用とともに地域の現実に向き合い「わがごと」として認識することで、主体的な地域づくりの責任と面白さを体験でき、新しいエネルギーが地域に生まれており、社会実験の域を超えた価値がある。

河川敷に学生らが企画・製作した「映える」モニュメントを設置

まちつくメンバー(2022)
今後の地域の担い手づくりにも
合同会社 暮らしの編集室
(埼玉県北本市)
ー 団地を開かれた出会いの場、誰にとっても心地の良い居場所として再生しようとする試み ー
- 活動の概要
- 団地の空き店舗等を再生。団地を改めて開かれた場所として提案
「暮らしの編集室」は、高齢化で寂れた団地商店街の再生等を試みる町おこし会社
東京のベッドタウンの高齢化率40%超といわれる築50年の2千戸の老朽団地の空き店舗とその周辺を拠点に、団地出身と団地在住者が集まり、まちの新しい可能性を模索。空き店舗を活用したエリアイノベーションで新しい居場所をつくる。
▶市とURと団地の活性化に関心がある民間企業も含めた5者で連携。空き店舗にシェアキッチン「中庭」を置き、ジャズ喫茶やライブ等を開催。団地内外の人の交流の場としている。また、第2弾として、団地内外の作家のシェア工房&ギャラリー「まちの工作室 てと」も開設。広場では、市内の福祉団体や農家の皆さんとの協働で子ども向けイベントや野菜市等も開催。団地を、住民だけでなく外にも開かれた場所として明るさを取り戻すことで、大人も子どもも、理由無く居ていい場所を目指している
▶物件の改築は、市の支援で、ふるさと納税型クラウドファンディングを活用
▶団地外の街中エリアにも、2階建てのシェア店舗を運営。各階を日割りでシェアし、低い負担で開業を可能に(曜日限定の食堂やフォトスタジオ等)
▶踏み出しのハードルの低さに配慮した取組が、起業の支援となっている - 選定理由
- 団地を、外の人にも居場所となれる空間に。また、起業支援として誰も挑戦できるしくみづくりに注目
全国的に農村部の地域づくりが話題になる一方で、都市部や郊外の地域づくりへの関心が相対的に低くなりがちな中、団地を外からも人が訪れる開かれた場にしようと、行政・企業と連携し商店街の再生を手掛けたことは注目に値する。また、小さな負担で週に1回だけでもチャレンジできるしくみや、福祉と暮らすラボ、手話カフェ、子ども食堂等、1つの場が様々な地域コミュニティの展開の足がかりになっており、単なる団地商店街再生に留まらない意義がある。全国各地も同様の大規模団地があるだけに、今後の展開や他地区での挑戦も期待したい。

団地内のシェアキッチンではジャズのライブも

団地内の工房兼ギャラリー
「まちの工作室 てと」
国土計画協会会長賞
ささラブ応援隊
(山口県萩市)
ー 廃校予定の学校と地域がタッグを組み移住定住策を展開、課題がむしろ資源となり地域も元気に ー
- 活動の概要
- 小学校存続目的の定住移住促進活動が大きな広がりを見せた
「ささラブ応援隊」は、小学校存続を目的とした保護者・地域・学校・行政の共同体
農村集落ながら歴史ある街道町であり利便性も極めて高い佐々並地区にありながら、子ども数の減少で小学校が廃校予定。地域の元気の核でもある小学校を存続させたいという思いから応援隊を結成。子育て世代の定住促進のための多彩な活動を地域を巻き込み積極展開。県を超えた問合せや関東圏からの移住世帯も
▶「佐々並小学校と住まいの見学会」により、4家族14人(うち小学生以下7人)の移住を実現。更には地区内の婚活にも取組み、地域の意識も変わってきた
▶移住先の「住まい」確保のため「空き家探索チーム」を設置。地区内の空家を調査し、所有者に働きかけ、市の空き家情報バンクに登録。更に空き家改修・再生の専門家集団を「応援隊」内に設置、所有者の悩みに応える支援体制を構築
▶移住希望者に「住んでみたい」と思ってもらうため、市も地区の魅力である伝統的建造物を改修し住民と地域外の人が食事や調理を通じて交流できる施設として整備。学校も平日の各地からの父母の視察を積極的に受け入れている - 選定理由
- 小学校廃校という危機感と地域愛から生まれた活動が、地域の幅広い新たな元気を生み出した
各地が学校の統廃合の方向に動く中、小学校を地域の元気の源として認識し、学校と地域が密に連携し、授業参観や体験の場を設け、着実な成果を生み出したことは注目に値する。学校自体が地域づくりにここまで積極的に関与する取組は珍しく、地域の問題を問題のまま放置せず諦めずに地域の強みと魅力を丁寧にアピールしたことが成果を生んだ。地域が支える小さな小学校の魅力を発信する取組と諦めない地域づくりが高く評価された。

佐々並小の授業見学会
(県内外から見学者が来訪)

地区のお年寄りや農業法人協力の田植え教室
日本政策投資銀行賞
久山町
(福岡県久山町)
ー「空き家」を住まいでなく、地域交流の拠点のシェアオフィス「そらや」に ー
- 活動の概要
- 町が主導する地域活性化に資する空き家の利活用と交流の実証
久山町「そらや」は、町が提案する地域交流型の空き家活用のシェアオフィス
「誰でもいい」ではなく、真に「久山が好き/交流に前向き/自らビジネスを展開する意欲がある人」という条件で利用者を募集
その受け皿に、あえて住宅地の奥まった空き家をシェアオフィスに
▶「人が増えることが地域の幸せなのか?」という疑問から、アプローチを逆転、来て欲しい人の条件を明確化
▶定期交流会やマルシェで地元住民と利用者が顔を合わせる機会を積極的に設定「顔も分からない人」から「地域の仲間」に。活動や人を知ってもらうための「そらや通信」を発行。300戸に会員で手分けして配布し活動を見える化
▶「そらや」を通じて、「地域の問題」が「地域の話題」に転換
▶「拠点がハブ」という状況から「利用者(人)がハブ」となる構図に進化
▶そのことから更に教育や農業、商業など他分野にも影響が広がっている
▶成功の秘訣は、面倒と言われる人付き合いを回避せず、出会いの場を数多く設けることで地域の信用と信頼を積み重ねたこと - 選定理由
- 来て欲しい人を地域側が明示、その受け皿として空き家をビジネス拠点として再生
「空き家」の登録と活用の少なさは、全国共通の課題だが、単なる居住の場ではなく、外に広がるビジネスの拠点、そして地域住民のチャレンジを後押しする出会いの場ともなっている点がとても興味深い。1軒の空き家でも工夫ある活用と近隣住民との交流で、様々な好影響・波及効果を生んだ点が面白く、大都市のベッドタウンの地域づくりのあり方のひとつとしても興味深い。交流人口は「数」ではなく「質」、そして入り込む側の「知られる努力」、顔を合わせる関係づくりの重要性。コロナ禍だから生まれたテレワークとリモートオフィスの流れなどをつかんだ点も「ピンチをチャンス」にという発想の転換のたまものだろう。

利用者と地域住民とが顔を合わせる「そらや交流会」を定期開催

そらやマルシェで餅つき
地域づくり表彰審査会特別賞
一般社団法人ふるさと楽舎
(広島県広島市)
ー 土砂災害で被災した棚田を再生、その米で復興の酒が生まれた ー
- 活動の概要
- 被害を受けた休耕田を再生、酒造り、冊子を配布、防災にも取組む
「ふるさと楽舎」は、平成26年の豪雨災害の復興支援活動で、安佐北区大林地区に集まった若者たちが立ち上げた地域づくり団体
被災地復興のために、若者たちと地域住民が協力し、被災地の休耕田で育てた米で、地元酒造会社の協力のもと、オリジナルの復興の酒をつくった
▶米作りは、田植えや稲刈り時に地域外から多くの若者・子どもたちを呼んで、地元農家の方の指導のもと、楽しみながら作業
▶昨年度は、クラウドファンディングで資金を集め、地元農家や役所の支援を得て初めて計画量に到達。公募により名前を決めた復興の酒「大林千年」を出荷
▶令和3年度末には、地域農家とともに「休耕田彩生会」を立ち上げた。休耕田を整え、地域外の人たちを受け入れ、耕作や自然観察フィールド等として開放することで、新たな支援者・仲間を増やすことを計画
▶約400年前から続くと言われる盆踊りに、酒造りに参加している地域外の若者とともに踊り手として参加し、その状況を発信 - 選定理由
- 被災地の休耕田という負の遺産を逆手に取り、地域の魅力発信・交流のきっかけに転化
地域の課題と若者の意欲を結び付け、ピンチを、地域外の若者の思いを実現できる場所として捉え直し、酒造りという発想につなげた。
復興支援を契機に地域の抱える課題に向き合うため「1000年先も集落であり続けること」を合言葉に地域内外の若者と地域住民が協働し、地域再興ののろしとして耕作放棄地の棚田で生産した地元伝統米で日本酒づくりに取組み、地域外へも広く販売することで安定的な収入確保に成功、新たな支援者・仲間を増やす計画で持続可能性を高めるなど、地域の活性化に功績があった。

再生された田んぼで子どもたちと一緒に田植え

実った米で酒造り
特定非営利活動法人 美郷宝さがし探検隊
(徳島県吉野川市)
ー 地区の団体として地元イベントを実施するとともに、外部団体に対する地区の窓口コーディネーターとしても活躍 ー
- 活動の概要
- 地元大学・地元企業との連携、体験会等を実施。移住相談も
「美郷宝さがし探検隊」は、「美郷ほたる館」を拠点に、地域おこしイベントの主催および同地区で行われる各種活動の現地コーディネートを行っている団体
美郷の伝統や文化資源を継承しながら、美郷の活性化を図り、住民が自信と誇りをもって生活できる環境の創造を目標として活動を開始
▶親子が参加して、ホタルが生息する川で昆虫や魚の観察会、あわせて手作りの水鉄砲などの川遊びで、次世代を担う子どもたちに自然を体験するイベントを実施
▶高齢になって作業が難しくなったユズの収穫や石積み周辺の除草作業を、企業や大学に応援依頼
▶ほたるまつり、梅酒まつり、ほたる観察ツアー、梅の花まつり、石積みライトアップ、季節に合わせたウオーキングイベント、河川清掃等、地元の宝を活用した活動を地域のガイドの方や団体と一緒に展開
▶新型コロナウイルスの影響で中止になったホタル祭りの代わりに、ホタルの舞う様子の映像を360度カメラで撮影しネットで公開した - 選定理由
- 過疎化で悩む地域の活性化のために「美郷の宝」を活用し、交流人口の拡大に成功
美郷の伝統と文化資源を多くの人に継承すると共に地域の過疎化に向き合うために、地域のイベントを担う団体として企業・大学・行政と連携し、一年を通じて「ほたる観察ツアー」「石積みライトアップ」等の様々なイベントの実施・支援。石積みの修復作業やほたる保護の河川の清掃活動に地域外から研修等で受入、移住相談を実施し関係人口を拡大させ、地域の活性化に功績があった。また若い人、地域外の人を中心とした新しいNPOと協働でイベント実施し、次世代への継承等にも配慮している点も評価された。

手作りの水鉄砲などで川遊び

ほたるかご作り